2018.03.13

JDRA副理事 横田淳氏に聞くドローンレースからみるドローン業界の今後:前編

特集
JDRA副理事 横田淳氏 インタビュー

今回は、一般社団法人日本ドローンレース協会(以下、JDRA)の副理事の横田淳氏にお話を伺いました。横田淳氏は、日本屈指のドローンレーサーでありながら、ドローンレースの普及を目的とした、様々な取り組みをJDRAで行われています。日本国内のドローンレースの現状から普及に際しての課題など幅広くお話を伺いました。

JDRA副理事 横田淳氏 インタビュー:前編

――JDRAはどのような団体かを教えてください。

ドローンレースを企画、主催、運営することが中核の事業ですが、我々はドローンレースを運営する団体としてだけではなく、ドローンレースをスポーツとして振興し、文化を作っていくことが重要なミッションだと考えています。
そして、その先にプロスポーツやオリンピックの正式競技化など、趣味で終わりではなく、ドローンレースをエンターテイメントビジネスとして成り立たせるために、テクノロジーの活用を前提として、様々な方の協力を得て共同していくということを現在取り組んでいます。

ドローンレースをスポーツとして実現するためにはアマチュアの人口を増やす必要があります。ドローン自体の普及や技術的な進歩も必要だし、ドローンに対するリテラシーも強くしていかないといけない、そこをJDRAとして取り組んでいます。そして、ドローンレースを普及するための1つの手段として、全国各地でドローンレースを開催し、マイクロドローンを使って手軽にみんなが遊べる仕掛けを作っています。教育とかプログラミングを通してドローンに触れる機会をたくさん設けているのは、アマチュアの人口、つまりはドローンに興味を持つ人を増やすことが目的であるためです。

――ドローンレースと言うのはあくまで1つのきっかけでしかなくて、ドローンレースをフックにドローンに興味を持ってもらって裾野を広げていくという事がJDRAのミッションの1つなのでしょうか。

ドローンレースをちゃんとしたスポーツにすることが我々のミッションです。僕たちの活動する前提条件というか、競技人口がいないとスポーツをやったところで産業化しないし、プレイヤーも世界で100名しかいないのに、それで何百億とか何兆円のスポーツ産業になるわけもないですよね。そこにはメーカーがいないといけないし、市場を作っていける法人・個人を作らなければいけない。そのためには日本だけでも何百万人の人がドローンや関連するサービスを購入したり、遊べる環境や市場を産まなければならないので、現在はその下地作りといったところです。

――JDRA設立の経緯を教えてください。

僕はJDRA設立後に参画しているので直接設立に関わっていませんが、JDRA自体は2014年頃から活動を始めています。2014年は世界的にもドローンレースがバズり始めました。LEDを搭載したドローンが林の中を猛スピード飛行して駆け抜けていく動画がYoutubeで再生されまくりスター・ウォーズにでてくるポッドレースみたいだと盛り上がりました。

その動画をキッカケに世界中の色々な団体がドローンレース始めようとして、日本においてもドローンレースをやろうということになって、有志が集まり団体が結成されました。

――3,4年前から活動を始められていたのですね。

そうですね。2015年の初頭に第2回Japan Drone Championshipsを開催しドローンレースを行いました。一般社団法人化したのが2015年の2月です。そこから組織立ってドローンレースを中心に色々なイベントを全国で行うようになりました。

――それではもう丸2年以上活動されていますね。

そうですね。2015年はドローンレースを手探りで関係者や有志で作っていました。当時は今みたいなFPV(First Person Viewの略で、ドローンに 搭載されているカメラに映し出された映像を観て操縦すること)自体がなかったので。みんな目視でドローンの操作をしていましたね。

ドローン関連ステッカー

――有志が集まってできてきたものが、周りの理解や協力もあり、社会的なニーズもあり、それで組織化していこうとなったということですが、組織化するきっかけはあったのでしょうか?

うーん、儲かりそうだったのではないですか(笑)。
設立には僕は関わっていないので詳細はわかりません。でも、(お金のことだけではなく)ドローンレースってやっぱり夢があるし、大きな可能性を感じさせてくくれるもので、今でもそれは変わらないです。

――なるほど。先ほどFPVの話が出たのですが、2015年当初からすると、FPVが出てきたと言うのは画期的なことだったのですか?

そうですね、1番最初にFPVを使い始めたのが2015年の10月位ですかね。その頃に(日本で)初めてFPVのレースが行われて。ドローンインパクトチャレンジという団体が、千葉県の香取市で行ったものですね。なぜそれが初めてだったのかと言うと、FPVをやるにはアマチュア無線4級が必要で、更に映像データを送信する機器の無線局の開設を申請しないといけないのでそれなりの期間(2ヶ月程度)がかかるからです。これは今でもドローンレースを開催する上で課題になっており、新しくドローンレースを始めようとする人にとっては、直ぐに実施ができないという課題がありました。

――FPVでのドローンレースが面白そうだと感じる人が増えて、アマチュア無線というハードルはあるものの、それでもドローンレースをやりたいがためにどんどん人競技人口が増えてきたという感じでしょうか。

最低でも2、3カ月はかかりますからね。無線免許とって、総務省に申請をして。

――それほどの手間暇をかけてもやりたいと思う魅力がドローンレースにあるということですね。

そうですね。ドローンによって今まで人の視点では見えなかった新しい視点(空中からの視点。これまで鳥しか見られなかった視点)から見ることができるようになった。そしてドローンレースに関しては、更にドローンの移動速度によるスピード感やスリル感がある。100メートル離れた場所であれば、たった5秒で移動することができるわけです。それは、人の体では物理的に不可能なことです。

――そういう意味では新しいスポーツになりえる可能性を秘めていますよね。

あると思いますよ。

――現時点での日本でのドローンレースの競技人口数は何人くらいでしょうか?

FPVのドローンレースをやる人に関しては3,000人超だと思います。最近はTINY WHOOPというマイクロドローンが流行ってきており、大きな後押しになっていますね。
もちろん1つの競技として考えた時には規模としてはまだまだ少ないので、この競技人口を何十万人にしていかないといけないのですが。

――1つの産業という点ではそうですよね。ドローンレースといえば、海外で盛んに開催されているイメージがあるのですが、日本のドローンレースとの違いや差はありますか?

産業化できているか?演出できているのか?という視点で考えると、海外よりも日本の方ができている部分が多いですね。海外のレースの方が派手にやっているようには見えるのですが、観客を呼べているところはほぼないです。一方で、レース自体が頻繁に行われていることもあり、選手たちが競い合える環境があるので、それ自体は良いことだと思っています。また、日本のように電波的な部分での法規制が厳しくないので、インターナショナルな大会が開きやすい。中国、韓国、アメリカなどでは、世界中から選手が集まって定期的にレースを開催しています。これが日本だと、我々も国際大会を過去に行いましたが、海外からパイロットを呼んでレースに参加するだけで、法律、特に電波法上の問題があり、招待費とは全く別にかなりの費用がかかっています。

法律上の壁というかハードルがあるので、「じゃあ来月日本で国際大会やるよ。エントリー誰でもしていいよ、参加費5,000円で」というような形で海外のレーサーを募集しても、合法的にドローンを飛ばせないのが現状です。そこが日本と世界の大きな違いです。日本は人口自体が少ないのでレース人口も少ないですが、ドローンレースの練習する場所自体は探せばあるし、レース用ドローンの機体やパーツの販売店もでてきているし、パイロットのスキルも海外に負けていません。そういう意味では(環境的には)海外から大きく遅れているということはありません。しかし、ドローンレースの開催数自体が少ないので、他の競技者と競い高めあう機会が少ないのです。ドローンレースを日本国内だけでやっていると同じ人としかレースをできないので、強い選手と戦い続けるには海外に行くしかないわけです。

JDRAとしては、選手を海外に送り出すための仕組み、例えば、企業スポンサーを募ってレーサーの海外渡航費やレース参加費に割り当てる、そういうスキームも考えています。

――JDRAの取り組みを海外に発信するという観点でいえば、JDRAのドローンレースのレギュレーションが、世界のレギュレーションになる可能性もあるわけですよね。

そうですね、まだドローンレースの統一のレギュレーションがあるわけではないので「ある程度このような感じのレギュレーションで行こうね」と世界的になっているだけです。2、3年後には統一レギュレーションに基づいたドローンレースが世界中で行われているもしれません。そのレギュレーションを策定することにJDRAとしては積極的に関わりたいと思っていますが、今のドローンレースをそのままレギュレーション化することはあまり考えていません。もう少しエンターテイメントして面白くするために、何かを抜本的に変えないと、きちんと楽しめるものにできないなと思っています。

そういう意味では現行のドローンレースを5年、10年と続ける気は全くないです。チーム戦という概念を取り入れたり、免許不要で誰でもできる障害物ドローンレースや、フィギュアスケートと同じように演技をするフィギュアドローンなど、そういう新しい種目をどんどん開発しています。その中でどうやったら見ている人が楽しいのか、スポンサーが喜ぶのか、そういったことを考えながら最適なコンテンツを作っているところです。

――先ほどTiny Whoopの話が出たので、少しお話しさせていただきたいのですが、レース用ドローンはエントリーモデルとしてハードル高い印象がある中で、Tiny Whoopは見た目も可愛いし、色々なパーツ交換もできるので、昔ハマったミニ四駆に近い感覚を持っているのですが、今後同じようにTiny Whoopは普及していきますか?

そうですね、間違いなく普及していくと思いますね。危なくないというのがすごく重要です。

Tiny Whoop

――安全性ということですよね。

大きなラジコンにしてもレース用のドローンにしても、安全対策が重要です。産業用ドローンでも安全の部分が最優先で議論されているところだと思うのですが。安全性はどうしても飛行しているものにはつきまとう課題です。その課題をすっ飛ばして考えられるのがマイクロドローンです。我々はレギュレーションとして30g以上のドローンをマイクロドローンとしてみなしておらず、ぶつかったりしても安全な範囲でマイクロドローンを定義しています。

今、どんどん軽く、どんどん小さく、かつ高出力に、という風に技術も進化しているので、小さくても綺麗な映像で、より長く飛ぶものができていくはずです。そのため、僕たちはあくまでも(30g未満という)上限は変えず、むしろ(安全のためには)もっと重量基準を下げることも視野に入れてもいいかなと思います。

――例えばパーツ、モーターを変えるとか、色を変えたりとかパッケージ変えたりとか、そういう面白さもありますよね。

レースであればモーターは早い回転のやつにするとか、空撮とか映像を撮るだけであれば低回転で長く飛行できるものをとか、そういう選び方ももちろんあります。最近の流れで面白いのは、ストリート系の人とか、音楽業界の人とか、子供から女性まで、Tiny Whoopが普及してきていて、カルチャーの1つとしてマイクロドローンが使われてきていることです。そういう新しい層の中では、例えばカウルの色にこだわったり、そこにペイントする人とか、サンタクロースを載せたり、ハロウィンのかぼちゃをあしらったりとか。そういう方向でカスタムをする人がどんどん出てきています。それって今までのドローンとかラジコンの世界ではなかった部分だな、と思います。

――ファッション感覚で始められるということですね。

(こういう流れを見ていると)ドローンを飛ばしたい人を増やすだけというのは少し方向性が違うのではと思ってきています。「ドローンを持ちたい」「手元に置きたい」といった、飛ばしたいだけでなく「アーティストが持っているから欲しい」というのも1つですし、「あのかっこいい人が持っているから同じのが欲しい、でも別に飛ばさない」というのもありかと思います。グッズと一緒ですよね。高級のコップを買って使わないで飾って置いておくのと同じで。そういう飛ばすだけではないドローンとの関わり方というのを、文化的な側面として出していきたいなと思っています。キャラクタービジネスとか、アニメ製作のプロジェクトも進めていますし、超有名なアーティストに使ってもらったりなども…。

――色々な人の目に触れるという観点ではわかりやすくていいですね。身につける感覚というか、本当にファッション感覚で。

そうですね、ドローンで撮るよりもドローンを撮る方が、インスタ映えするかどうかはさておいて、ネタになるわけじゃないですか。そういった、飛ばすだけでない、周辺のアクションとか行動をモチベーションにするような広め方もしていこうと思っています。

JDRA副理事 横田淳氏

前編を終えて

ここまで横田氏にJDRAの設立の経緯や目的とドローンレースの普及についてお話を伺ってきましたが、ドローンに対する愛を感じると共に、ドローンのエンターテイメントとしての可能性にワクワクを覚えますね。
後編ではそんなドローンをもっと多くの人に楽しんでもらうためのJDRAの活動や、2018年の展望について伺っていこうと思います。

インタビュー日時:2018年1月31日(水)
撮影場所:the 3rd Burger 新宿大ガード店 (東京都 新宿区 西新宿 7-10-5 イビス東京新宿 1F)
取材者:市川、日比