2018.04.27

電動バイクのTerraMotersがTerra Droneを立上げた理由と今後の展開

特集
テラドローン

2016年2月に会社設立以来、測量分野でのドローンの利活用を積極的に推進されている
Terra Drone株式会社。今回は、Terra Drone株式会社の設立の経緯から、注力分野、今後の展開について同社プロダクトマネージャー塩川様にお話を伺いました。

Terra Drone株式会社プロダクトマネージャー塩川氏 インタビュー

――TerraDrone株式会社の設立の経緯を教えて頂けますでしょうか。

塩川氏:TerraDroneの母体は、2010年に立ち上がったTerraMoters株式会社です。電動2輪、3輪バイクを東南アジア圏で販売している会社です。インド、ネパール、バングラデシュ、ベトナムという国々で、年間約3万台を販売しています。2016年2月にそのTerraMotersの技術資本力と、ドローンでの測量をいち早く手掛けており技術的な蓄積のある株式会社リカノスのノウハウを組み合わせて、国内でドローンの事業をやっていきましょうという形で、TerraDroneが誕生しました。

――電動バイクの製造販売を始められていたTerraMotersが、なぜ、TerraDroneという、ドローンの会社を立ち上げることになったでしょうか。

塩川氏:事業的なシナジーでいうと、コア技術のひとつは、電池が共通していることです。あとは創業者の徳重(編集注:TerraMoters株式会社、TerraDrone株式会社の代表取締役社長)は、基本的には事業チャンスがあるところに資本をどんどん投入して、世界で戦っていけるようなビジネスをやっていく姿勢です。TerraMoters、TerraDroneに関わらず、TerraGroupとしての同様の理念としてあるので、事業を始める上でタイミングが非常に重要でした。また、i-Construction(編集注:アイ・コンストラクション。国土交通省が推進する「ICT の全面的な活用(ICT 土工)」等の施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り魅力ある建設現場を目指す取組の事)も始まっていましたし、それまでは空撮や趣味でのドローンの利活用の主流でしたが、これから産業用としての利用が増えていくといった市場調査の結果もありました。重要なのは、徳重自身が日本全国走り回って情報収集してビジネスとして成立しそうだという感触を掴んで事業参入して進めているところです。

――2016年2月にTerraDroneを立ち上げられて、ちょうど丸2年経過していますが現在の事業内容について教えていただけますでしょうか。

塩川氏:大きく分けて3つあります。1つ目は、実際に現場でドローンを使ってのサービスです。これは主に測量と点検が、メインのアプリケーションになっています。2つ目は、ドローンで取得したデータを処理するためのソフトウェア「Terra Mapper」の開発と販売です。3つ目は今後ドローンの商用利用が普及していった場合に、ドローン専用の交通整理が必要になってくる為、ドローンの運行管理システムを開発・提供しています。

――最初にドローンでの測量や点検サービスがあって、利用者側のニーズに応じて、ドローンで取得した画像処理ソフトの開発や、ドローンの運航管理システムに繋がってきたのでしょうか。

塩川氏:そうですね。2016年と2017年の前半ぐらいまでは、ドローンでの測量の普及過渡期で我々のような専門のドローン事業者に外注するケースが多くて、我々も年間400件程度の現場をこなしておりました。そこからしばらく経って機体自体の性能の向上もあり自動航行が主流になってくると、お客様自身でドローンを飛ばせる方が増えてきています。そのような流れの中で我々が、お客様自身で効率的にドローンでの業務を行っていただくためのシステムを提供する側に回っております。

また、我々がいち早く運行管理システムを手がけ始めたのは、今後ドローンでの産業での利活用が進んでいくとそれを一元的に管理するシステムが必要になるからです。そこで一昨年、運航管理システムについて圧倒的に進んでいたベルギーにあるユニフライ社に5億を出資し、技術提携しました。この分野については国がまたがるところでは法規制も異なるので、各国の航空産業に精通している有力なパートナーとの提携が必要になります。

テラドローン飛行風景

画像:ドローンを使用して測量用写真の撮影(TerraDrone株式会社提供)

――先ほど、ドローンを活用した測量業務を年間400件受注されているというお話がありましたが、非常に多数の現場業務を実施しているからこそ、現場のニーズが肌感として分かってきて、そのニーズに応えるような商品やサービスを提供していこうといった流れがあったのでしょうか。

塩川氏はい、実際の現場を数多くこなしている所がTerraDroneとしての強みです。そして、現場のオペレーションとアプリケーション毎に使われるソフトウェア、各アプリケーションを取りまとめる運行管理システム。垂直統合的にビジネスを展開しているところですね。これらは独立した事業に見えますが、実は全て繋がっています。現場の課題やニーズをしっかり把握した上でソフトウェアに反映はしていきますし、逆にそのソフトウェアの改良や機能追加した場合にそれを実現場でテストするといったループを回していくことができます。

――垂直統合されている強みを感じます。

塩川氏:そうですね。ドローンのビジネスで最も重要なのは現場です。現場での課題をいかに、繰り返しにはなりますけれども、ソフトウェア的に吸い上げて、より効率化していくかが重要です。

――ドローンのサービスは、ソフトウェアだけでなくハードウェア(機体)も関わってくる為、ソフトウェアもハードウェアも一気通貫でやらないと、逆にビジネスとして成立しづらいのではないかと思っていまして、まさにその一気通貫したドローンビジネスを御社は体現しつつありますね。

塩川氏:運行管理システムは各制御の基盤を実装し、アプリケーションレイヤーでは土木・測量と点検に注力しています。この運行管理プラットフォームで、様々な産業別のデータが集められる仕組みができれば、土木・点検用アプリケーションの改善にもつなげていけるとは思いますし、逆に現場のノウハウがあるからこそ、現場のオペレーションをいかに簡略化するかを考え、ドローンの運行管理システムに反映することができます。全ては繋がっています。

テラドローンアプリケーション

画像:産業別アプリケーションの構造(TerraDrone株式会社提供)

塩川氏:例えばTerra Mapperクラウド版(編集注:TerraDroneが提供するドローンで取得したデータ利用を活用するための総合プラットフォームのクラウド版)では、測量用のミッション、飛行計画を作って、取得した画像データが自動的三次元データとして処理されるようになっていて、全てのワークフローの自動化を目指して開発しています。

TerraMappercloud

画像:Terra Mapperクラウド版(TerraDrone株式会社提供)

塩川氏:今だと、地形の画像データをTerra Mapperクラウド版にアップロードして自動的に処理する一方通行ですけど、今後はその逆も必要になります。Terra Mapperクラウド版で3次元データをとり、その3次元地形データをUTM(編集注:UAV Traffic Managementの頭文字をとったもの。ドローンの航空管制システムの事)で表示することによって、現場のリアルな地形に沿った飛行計画を組むことも可能になります。

――それはすごいですね。先日、山間部や離島における目視外を飛行するドローンを使った荷物輸送をこの夏から解禁されるといったニュースがでていましたが、例えば高低差のある山間部でドローンを飛行させる場合に、3D化したマップがあって飛行計画を立てられるとより安全な飛行計画が立てられそうです。

塩川氏:今、自動運転で車の方も地図データ3次元化する流れがありますが、ドローンは空を飛ぶものなので最初から3次元的に制御しなければなりません。

――続いて、御社の注力分野を教えていただけますでしょうか。

塩川氏:国内においては測量と点検ですね。アプリケーションでは、その二点にフォーカスして開発していく流れです。測量に関しては、i-Constructionという政府主導のながれがあって、日本ではその技術蓄積はうまくできていると思います。ドローンを利用した測量が日本以上に普及している国ははないので、うまくいっている分野だと思います。逆に我々が危機感を持っているのは点検です。今のところドローンを利用した点検は、アメリカ、ヨーロッパが進んでいるので、その立ち上げは遅らせてはならないと危機感があります。インフラを管理する側の考え方が欧米と日本では違いがあると思っています。その考え方の違いは否定する意味ではないですが、日本の管理者の方はドローンによる点検業務の効率化もさることながらドローンの落下リスクを第一に考えられています。

――安全性ですね。

塩川氏:ドローンの安全性はかなり聞かれますし懸念されています。一方で、欧米では、システムを使わずに手動で点検されているような事例が多数見受けられるので、アメリカ現地でヒアリングすると、点検がひとつ大きなアプリケーションとしてできあがっている。それは技術のレベルが違うというよりは、依頼する側の考え方による違いという気がします。

――ドローンの安全性、特に落下リスクについては、恐らくどこまでいってもつきまとう問題とは思いますが、どの程度のリスクまで許容するのかといった合意も必要なのかもしれません。勿論、前提にはあるのはサービス提供者側においては想定し得るリスクの発生の可能性を徹底的に排除しておくということだと思います。

塩川氏:そうですね。測量は産業として立ち上がったので、点検に関しても、我々としても、やっぱり参入する機会に関しては常に見ていますが、現実的に依頼者との合意が得られない事もあります。我々は海外にも人を配置しているので、海外で先駆けて技術蓄積をしていくことも重要です。

――先ほど依頼者との合意というお話がありましたけれども、サービス提供側としてやらなければならない事はなんでしょうか。

塩川氏:サービス提供側でしっかりドローンを業務で使用することのリターンとリスクを依頼者側にしっかり説明しなければならないと考えています。つまり、ドローンを飛ばすことによって、得られるメリットと、逆にそれに伴うリスクの部分。これは1例ですが、岐阜のイベントでドローンが落下する事故がありましたが、冷静に考えて得られるリターンよりもリスクの方が大きいだろうとか、その辺を見極めていく必要があり、依頼者側にも提示していく必要があると思います。我々は依頼者に対して、ドローンを使うことの費用対効果をしっかり見極めたうえでソリューションを提供します。

――お客様の解決したい問題点を伺った際に、その解決手段としてドローンが適切かというところまで掘り下げて、お話しをされるということですか。

塩川氏:お客様からいただいた課題に対して、全部が全部をドローンで解決すればいいというわけではありません。そこはドローンが必要な部分をしっかり見極めていき、その見極めの過程で残ったところに関しては、徹底的に深堀してソリューションにつなげていきたいと考えています。

――続いて、事業者の観点から、日本におけるドローンの産業振興の課題についてお聞かせください。

塩川氏:良い部分でもあるし悪い部分でもあるのが、政府主導でやらないと、何事も進んでいかないっていうところは課題としてあります。規制産業でもあるので、仕方ない部分はあるものの、先ほどの例だとインフラ点検分野について、アメリカではインフラを保有している民間主導で普及しているので、官民の役割分担が大事ですね。

――先ほど、岐阜の事故の話もありましたけど、ドローンの運用に関する規制が厳しくなってきているように個人的には見えていますが、一方、規制緩和をしていかなければ、産業自体が振興していかないという考え方もあると思いますが、その中での、御社の役割を教えてください。

塩川氏:ひとつは、安全な運行管理システムを我々として提供していくことですね。そのシステム自体に安全に飛行するためのチェック項目みたいなのが内蔵されていて、そこに全てチェックがつかないとか、飛行禁止区域にドローンが立ち入らないような仕組みを普及させる必要がります。あとは、繰り返しになるのですが、事業者側の責任ですね。効率化というリターンが伴わないところでは、リスクを取るべきではないと思います。

――今は、ドローンっていうだけで、ニュースや話題にのぼったりしますが、本当にドローンが普及している段階では、ドローン自体話題にならないのかなと思います。世間一般で当たり前のものだったら、ニュースバリューがないからですが。お話を伺っているとドローン当たり前の社会がすぐ近くまで来ている気がしています。

塩川氏:そうですね。「測量×ドローン」に関して日本では普及しつつあって、半ば当たり前になりつつあるフェーズだと感じていますね。ドローンで測量業務を行っただけでは、ニュースに取り上げないレベルにはきてはいるので、一般化してきていると思います。他のアプリケーションに関しても、今後そうなっていくってことが考えられますね。

――なるほど。最後に2018年の御社の展望について、教えてください。

塩川氏:もともとの事業的な目的から逆算すると、我々は先ほどの「産業用ドローン×広義でのソフトウェア」で、世界ナンバー1を取るっていうところを本気で目指してやっています。今夏から山間部や離島での物流が解禁され、2020年までに都市部での物流も本格的に始動するにあたって政府が検討をしていると、完全にドローンが、社会的なインフラとして普及していく上での追い風になります。

そういったプラットフォーム事業もさることながら、我々は現場でのオペレーションを重要視しています。現在、日本全国で7拠点設けてサービスを提供していますが、2018年からは本格的に世界でサービス拡大していきます。アジア諸国含めて他国でそういった現場でのオペレーションっていうのをやっていくのは、非常に過酷です。我々は現地でのパートナーに対してノウハウも提供しながら、現地の人を巻き込んで展開していきます。

あと日本でも盛んになってきていますが、企業間でのパートナーシップが今後より重要になってくると思います。例えば、点検ひとつとっても、ひとつひとつの構造物によって、点検の手法とか、実際見るべき傷とか違ってきたりするわけで、そこは専門家の声をひたすら聞いていく必要があります。協業によって効率的なソリューションを一緒に作り上げていく必要があると思います。

インタビューを終えて

塩川様のお話を伺い、TerraDrone株式会社を一言でいうと「現場重視」と感じました。

現場で実際自分たちもオペレーションをするから、お客様の顕在的ニーズだけでなく潜在的なニーズがみえてくる。設立2年と若い会社の部類に入ると思いますが、確度の高いお客様のニーズについての仮説検証を非常に速い回転でまわしているからこそ、急速に会社として成長されているのではないかと思います。TerraDrone株式会社の今後の活躍にますます期待がかかりそうです。

<Terra Mapper のお問い合わせはこちらから>
 https://mapper.terra-drone.net/
<Terra Drone のお問い合わせはこちらから>
https://www.terra-drone.net/

インタビュー日時:2018年3月19日(月)
撮影場所:TerraDrone株式会社 本社 (東京都渋谷区神宮前5丁目53−67 コスモス青山SOUTH棟)
取材者:堀山、市川